解釈の異なるふたつの公演とキャストトークをお届け

バンダイナムコエンターテインメントがおくる、新感覚の朗読劇プロジェクト『ライブドラマシアター』。劇中のシーンに合わせたイラストを効果的に表示し、耳だけでなく視覚でも楽しめるようになっています。

 【ライブドラマ】キービジュアル

その第1弾として、日本の飛鳥時代を舞台にした『天つ風、飛鳥に散る花~蘇我入鹿の物語 陽/月~』が、2019年9月1日にオリンパスホール八王子にて開催されました。ここでは日本書紀に則った昼公演「陽」と、独自に歴史の流れを追った夜公演「月」をそれぞれレポートします。

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出演は、蘇我入鹿(そがのいるか)役の鳥海浩輔さん、中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)役の下野紘さん、中臣鎌足(なかとみのかまたり)役の小野大輔さん、山背大兄王(やましろのおおえのおう)役の増田俊樹さん、軽皇子(かるのみこ)役の八代拓さん、皇極天皇(こうぎょくてんのう)役の平川大輔さんです。

このライブドラマシアターではキャストの朗読だけではなく、スクリーンにキャラクタービジュアルや背景グラフィックが表示されるので、視覚でも楽しめるのが特徴です。キャラクターも場面によって表情を変え、空が映し出される背景では雲が流れるなど、躍動感も感じられます。

さらに効果音やBGM、シーンによっては大勢の声が聞こえるなど、臨場感たっぷりの演出をじっくりと味わえます。イメージとしては、乙女ゲームのようなテキストアドベンチャーのゲームを生の朗読で贅沢に体感している……といったような印象でした。

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昼公演では現代に伝わっている歴史を再現したものでしたが、夜公演ではその印象がすべて覆される事態に。蘇我入鹿は逆賊ではありませんでしたし、そのほかの登場人物たちの抱えたさまざまな本心が次々と明かされていきました。

そのため昼公演で見たワンシーンがまったく違うやりとりに変化し、結末こそほぼ同じながらも観劇後の後味は真逆といっていいほど変わっていました……!

逆賊・蘇我入鹿が中大兄皇子に打ち倒されるまでを描く“陽”

舞台は、日本が倭国と呼ばれていた飛鳥時代。そして物語の中心となるのは、有力な豪族である蘇我本宗家の長子・蘇我入鹿です。

舒明(じょめい)天皇が亡くなり、次期大君(天皇)候補が複数現れたため、一時的にその后が皇極天皇となりました。そこで蘇我入鹿は自身の目的を果たすため皇極天皇の信頼を勝ち取り、皇極天皇は蘇我入鹿を盲目的に信じるようになります。

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自信にあふれ、強い野心を抱く蘇我入鹿を堂々と演じる鳥海さん。そんな蘇我入鹿にどんどん惹かれていき、女性としての愛欲を滲ませる平川さんのたおやかな演技には思わず「演じているの、男性だよね?!」と考えこんでしまったほど。ふたりが寄り添うシーンは、もう男女の恋人のようにしか思えませんでした。

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一方、皇極天皇の実の息子である中大兄皇子も、次期大君候補のひとりとして妹・間人皇女(はしひとのひめみこ)と暮らしていた葛城から呼び戻されます。しかし年若いことを理由に反対されることも多く、蘇我入鹿を重用する皇極天皇からないがしろにされていました。

そんな中大兄皇子を支えるのが、中臣鎌足です。本来は主と臣下という関係ですが、中臣鎌足はかなり中大兄皇子をぞんざいに扱い、歯に衣着せぬ物言いで一刀両断することもしばしば。

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下野さんが少し子供っぽさを滲ませながら騒ぎ立て、それを小野さんがさらりと受け流すやりとりは、シリアスな場面の多い本作でホッと一息つける空気に包まれました。一見悪友のようにも思えるふたりでしたが、目的を共にする相棒のような強い絆も感じられます。

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本来もっとも天皇の座に近いと思われていたのが、蘇我入鹿の従兄弟でもある山背大兄王です。しかし、次期大君候補という立場に興味がないと言い切り、ただ倭国と民の平穏を祈っていました。

その思想により民には慕われる人望の厚い人物ですが、身内の蘇我氏からは疎まれています。かつて蘇我入鹿とは倭国のため、ともに力を合わせようと熱く語り合う仲もでもありました。

穏やかに周囲へ語りかえる増田さんの口調はどこまでも優しく、しかし己の願いは譲らない芯の強さも感じられるものに。いつまでも聞いていたいと思うほど、心地よく耳に響いていました。

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さらに、皇極天皇の弟である軽皇子も次期大君の座を狙うひとり。そこで後ろ盾を得るため、蘇我入鹿に取り入ろうとしていました。

しかし政治への関心は強いものの、諸外国への危機感が非常に薄いという一面も。少し頼りなさも織り交ぜた、非常に人間味のある軽皇子を八代さんが丁寧に演じます。

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蘇我入鹿がますます権力を強めるなか、山背大兄王は皇極天皇の前で「民のために大君になる」と宣言。

これまで穏やかに話していた山背大兄王でしたが、この場面では増田さんがしっかりと声を張り上げて皇極天皇を糾弾します。これを受け、平川さんも怒りに震える凄絶な演技で周囲を押し黙らせ、会場内にかなりの緊張感が走りました。

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しかし皇極天皇の逆鱗に触れた山背大兄王は、一族郎党を皆殺しにされてしまいます。山背大兄王は互いの道が決して交わらないとしながらも、蘇我入鹿が大切な存在だと伝えて亡くなりました。

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いよいよ蘇我入鹿の暴挙を止められる人がいなくなりますが、中大兄皇子と中臣鎌足は周到に準備を重ねて討ち取ります。こうして時の権力者として君臨した蘇我入鹿は、ついに歴史から姿を消しました。

すべてのしがらみから解き放たれた蘇我入鹿と山背大兄王は空を自由に駆け巡る“天つ風”となり、この国の行く末を静かに見守るのでした。

本性が明かされ、物語の意味が大きく変化した“月”

“陽”では歴史で伝えられている通り、逆賊・蘇我入鹿が打ち滅ぼされて乙巳の変(いっしのへん)は終わりを迎えました。しかしこの物語の真実は、それとは大きく異なっていたのです……。

舒明天皇が亡くなり、悲しみに暮れる皇后のために、蘇我入鹿は臣下として力を尽くすと誓います。それはただ皇后を哀れに想い、打ちひしがれた心を救うための行動でした。

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“陽”では野心に溢れたといった様子でしたが、“月”での鳥海さんの演技は言葉の端々から実直さや誠実さが伝わってくるものに。同じ人物、同じようなシチュエーションながら、演技から見えてくる人物像がまったく変わってしまいました。

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やがて次期大君の座を狙って複数の候補が持ち上がると、蘇我入鹿は内戦を防ぐため皇后にその座へつくよう説得。倭国をまとめるために支え続けると訴える蘇我入鹿に、皇極天皇は病的なまでに傾倒していきます。

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こうして世情は安定しますが、中臣鎌足はそれをよしとしません。中大兄皇子が抱く間人皇女への純粋な恋心を利用し、蘇我入鹿を倒すため味方につけます。

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“陽”ではただ中大兄皇子に従っているように見えた中臣鎌足でしたが、内心は自分の目的のために淡々と周囲を利用する冷徹な一面が明かされていきます。「あんなに仲が良さそうだったのに……!」と、小野さんの演技のギャップにますます物語へ引き込まれていきます

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一方、蘇我入鹿は山背大兄王へ協力を求めていました。ここでは、蘇我入鹿はあくまで臣下として皇極天皇を支えていること、内戦を防ぐためとはいえ皇后を政治の犠牲にしてしまった負い目、だからこそ山背大兄王に大君になってほしいという本心が明かされます。山背大兄王も蘇我入鹿を信じており、権力のために行動していたのではないと分かっていました。

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そして山背大兄王は皇極天皇の宴に乗り込み、民のために大君になると宣言します。

しかし中臣鎌足はふたりが手を組むのを阻止するため、皇極天皇と軽皇子に山背大兄王を反逆者として討ち取るよう誘導。蘇我入鹿が助けようとした時にはもはや手遅れの状態で、山背大兄王はその命を譲り渡すと言い残して息を引き取ります。

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“陽”では悲しくも対立してしまっていたように見えましたが、“月”ではふたりがしっかりと手を取り合おうとしていたことが判明し、鳥海さんと増田さんはふたりの悲しい別れをしっとりと演じます

どれほどお互いを大切に想っていたのかが伝わってくる演技に胸を打たれ、涙が出そうになるシーンが展開されました。

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大きな権力を手にした蘇我入鹿ですが、その心に残っていたのは山背大兄王の言葉だけでした。中臣鎌足は中大兄皇子を皇極天皇の元へと向かわせ、説得の末に蘇我入鹿を誅殺する勅命を賜わります。こうして中大兄皇子は蘇我入鹿を倒し、すべてが終わったかのように見えました。

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しかし皇極天皇が蘇我入鹿を殺せと命じたのは、もう二度とどこにも行かせないためでした。はねられた首を愛おしそうに抱く皇極天皇に、中大兄皇子は怒りとも悲しみともとれる絶叫をぶつけます。

“陽”では家族を失って悲しみにくれる儚い女性といった印象の皇極天皇でしたが、“月”では平川さんが終始ゾッとするほどの狂おしい情愛を見せてくれました

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ここで、中臣鎌足が隠し続けていた本心が語られます。彼はもともと百済の王族であり、祖国のために倭国の中枢へと潜り込もうとしていたのでした。倭国を操る日もそう遠くないと手ごたえを感じていた中臣鎌足でしたが、さらに衝撃の事実が明かされます。

初めて中臣鎌足の前に姿をみせた間人皇女は、皇極天皇にそっくりの容貌をしていました。中大兄皇子は間人皇女を愛していたのではなく、最初から母である皇極天皇だけを愛し、間人皇女もそれを承知の上で中大兄皇子を慕っていたのです。

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母から愛されることのなかった中大兄皇子は、皇極天皇が身ごもった蘇我入鹿の子も、大君の座に近い者も、いずれ軽皇子もすべて殺すと断言。

中臣鎌足に「すべてお前の望んだことだろう」と、空気が凍り付くような一言を投げかけます。鋭く言い放った下野さんの冷たい表情に圧倒されながら、物語は幕を閉じました

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キャストトーク

かなりシリアスな朗読劇だったためか、昼公演ではトークタイムに入っても緊張がなかなか解けなかった面々。しかし夜公演ではすべてが終わったため、ほっとするような大きなため息からトークが始まります。

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登場キャラクターが全員亡くなるか、精神が壊れてしまった人ばかりで終わったため「バッドエンドだ(笑)!!」と全員で爆笑。中臣鎌足を演じた小野さんも、この場では生き残ったものの、史実ではそう遠くないうちに亡くなってしまうと切なさをにじませます。

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また、女性役を演じた平川さんは当初ミスだと思ったと明かし、なかなか異性を演じることがないため緊張したそうです。しかしそのセクシーな演技はファンだけでなく、ほかの出演者からも大絶賛!

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ちなみに増田さんは山背大兄王のビジュアルを見た際は「話を引っかき回す、ヤバイ奴かも」と思ったそうですが、実はいちばんまともだったので申し訳なかったと笑いながら話してくれました。

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濃厚なお芝居をたっぷりと演じられたキャストからは「今度は縄文時代や弥生時代も!」「また違った大化の改新ができそう」と、さらなる展望も飛び出します。

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「さらに時空を超えたお芝居ができるのでは」と話す下野さんは、幸せな時間だったと振り返ります。鳥海さんも本職の部分を表現できるのは贅沢な時間だったと話し、訪れたファンの顔をしっかりと見ながらお礼を伝えました。

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公演概要

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【タイトル】『天つ風、飛鳥に散る花~蘇我入鹿の物語 陽/月~』
【会場】オリンパスホール八王子
【公演日】2019年9月1日(日)昼夜2公演
【出演】鳥海浩輔、下野紘、小野大輔、増田俊樹、八代拓、平川大輔

(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.