“主人公”ではなくプレイヤーがハルトと恋する『囚われのパルマ』

【palm】ハルト_面会イメージ小

『囚われのパルマ』は、カプコンの女性を中心としたチームが贈る体感恋愛アドベンチャーゲーム。

▼ざっくりした内容はこんな感じ
梅原裕一郎主演! カプコンによる体感恋愛アドベンチャー『囚われのパルマ』近日配信

梅原裕一郎さんインタビュー

プレイヤーは、記憶喪失の青年・ハルトと面会などで交流を深めていくことに。開発者インタビュー後編は、“素の自分が恋をする”画期的なゲーム内容を中心に伺っていきます。

※前編はこちらから

開発陣インタビュー・後編

プロジェクトマネージャー:原 美和(はら みわ/文中は原) チームの全般的なマネジメントを担当。チームの大黒柱的存在。

ディレクター:白鳥有葵(しらとり ゆうき/文中は白鳥) 本作の企画発案者。ゲーム全体のディレクションを担当。シナリオ執筆もしている。

キャラクターデザイン:実田千聖(みた ちさと/文中は実田) 本作のアート全般を担当。テレビアニメ『マクロスΔ』のキャラクター原案も手掛ける。

プロモーションチーム:猪川夏希(いかわ なつき/文中は猪川) 本作のプロモーター。宣伝施策のほか、展開スケジュールのマネジメントを担っている。

パブリシティチーム:阿達由美(あだち ゆみ/文中は阿達) 情報公開スケジュールの管理を担当。各メディアとの窓口として、本作を各方面にPR

面会とメッセージを彩る“話題”を探して

タイトル画面

――では、ここからはゲーム内容についてお伺いしたいと思います。本作はどんな流れで進んでいくのでしょうか。

白鳥 大まかには、ハルトに会える面会と、それ以外のパートという構成です。面会では会話ができるのですが、会話にもいろいろな種類があります。メインストーリーの進み具合で彼の反応も変わってくるんです。

最初、出会ったばかりのころは、お互いのこと何も知らないですからハルトもそっけない。でも、面会で話していくうちに徐々に仲よくなっていきます。

ハルト紹介01 ハルト紹介02

――ハルトにはいろいろ秘密があるようですが、それもお話の中で明らかになっていくのでしょうか。

白鳥 ハルトは人より記憶力が良くて、それが後に明かされる彼の正体や能力にも繋がってきます。それが後に明かされる彼の正体にもつながってくるんです。

お話では、どうして彼が囚われているのかとか、プレイヤーとの関係はどうなっていくのかといったところを描いています。彼との仲が深まることで謎が少しずつ明かされ、また仲が深まっていくというサイクルをくり返すことによって、ストーリーが進展していきます。

――ストーリーがすごく気になります!

白鳥 ハルトの能力が、プレイヤーだけに通じないために、プレイヤーに興味を持つんですね。そこがポイントになってきています。

 キミは特別というのを設定の中で感じてもらおうと。

ストーリー03

――なるほど。彼と親密になるほど、面会できないときはすごくもどかしくなりそうですね……。

白鳥 彼と会えないときは、ゲーム内のスマホのメッセージツールでやり取りができますよ。

メッセージ_スチル入手 【palm】スチル_心にも光を灯して

――イマドキな感じですね。

白鳥 最初は手紙でのやり取りだったんですよ。手紙を送っては、返事を待つというのんびりとしたペースだったんですけど、いまのユーザーさんの感覚に沿った形で、メッセージアプリになりました。

 手紙のころは、リアル1日に1通しか送れないとか……ストイックですよね(笑)。

――そこまでストイックになれるか不安なので、メッセージにしていただいてよかったです!

メッセージ_選択肢 監視_監視話題吹き出し

白鳥 メッセージで、たとえば「いま、何してる?」って送って、ハルトから「本を読んでる」って返ってきたとします。実際に彼の部屋を監視してみると、彼が本当に本を読んでいるんです。メッセージと監視が連動しているわけです。これは、彼がそこに生きていること、彼が人間として存在しているんだというコンセプトに基づいています。

――それはすごいですね。それじゃあ、たとえば彼が寝ていたらどうなりますか?

白鳥 彼が眠っているとすぐに返信が来なかったり、起きてから気づいて送ってくれたりします。

 ストーリーが進んで彼と親密になってくると、返信もちょっと早くなるんですよ。

――そういったところでも、どのくらい親密になったのかが実感できるんですね。

監視_メッセージ送信 メッセージ_書き込み中

 本作はテンポ感を非常に大切にしていまして、メッセージはその中でも非常に重要な要素なのでギリギリまで調整を行っています。

――メッセージではどんなことをやり取りするのでしょうか。

白鳥 メッセージを交わす際には、”話題”が必要です。「今日はこういったものを見つけたよ」というような。そんな話題を手に入れるため、島の中を探索して住人と会話したり、差し入れるアイテムを入手したり。

外出_雑貨店 メッセージ_話題選択

――島にはお店などがあるようですね。

白鳥 島の中にはいくつか施設があって、喫茶店なら喫茶店のマスターというように関連のある人物が出てきたりします。住人たちには個性があって、それぞれにこういった話題に強い、というのがあります。

たとえば喫茶店のマスターは家族がいるので、家族のことや勉強などの話題に強いですし、オネエの人ならファッションや恋愛の話に強いといったような。その話題を手に入れるには、その人のところへ行く必要があります。

――なるほど、詳しい人に聞きに行くというのは現実でも自然なことですよね。

白鳥 話題も、女性の会話でよく話題にあがるような、盛り上がりやすいものを取り入れています。そういった話題から、プレイヤー自身の性格や嗜好などの情報をデータとして蓄積しているんですよ。どの話題を手に入れて、ハルトとどうやり取りしたのか、プレイヤーは何が好きで、嫌いなのかという情報ですね。

それをハルトが覚えていてくれているんです。「犬と猫だったら、犬が好きなんだよね」と言ったことを覚えていて、「あのときキミ、犬が好きって言ってたよね」と返してくれます。

――ええっ! それはうれしいですね。

 それぞれで得たプレイヤー情報を蓄積して、彼とのセリフが変わってくるんですよ。この辺りは心理学者・ユングのタイプ論を応用しているんです。

白鳥 大まかに人って性格の傾向があると思うんですけど、「キミってこういう人なんだよね」と、さりげなくいろいろな場面で返してくれるわけです。そういったところで自分自身を反映させた、彼との恋愛を感じてもらえるようにしています。

――ゲーム内の彼に自分のことを知ってもらえるというのは、革新的かと。

実田 まず、ハルトがプレイヤーさんを認めるというところから始まるといった感じです。

 彼が自分に合わせてくれるというか。

白鳥 現実でも、人と接するときに「この人にはこう接する、あの人にはこう」と無意識のうちにやっていることを、ハルトもやっているんです。ですので、ハルトの性格はブレることなく、こういったタイプのプレイヤーさんだからこういった返しをする、といったことを自然とやっています。自然すぎて気づかれないかもしれませんが……。

――ほかの人といっしょにプレイすれば気づくかもしれませんけど、自分ひとりだとわからないかもしれませんね。

 心理学をベースにしたシステムにより、プレイヤーと同じ考えかたのテキストに分岐したりするので、自然と「ハルトと私は近いな」と感じることはあっても、違いを感じることはないんじゃないかと思います。ですので、彼が自分の心にスッと入ってくるかと思います。

実田「ハルトくんは私と、気が合うな」って思っていただけるはずです。

 だから、ハルトは”攻略対象”という感じではないんですよ。本当にプレイヤー自身が恋愛をしてもらうという感覚なんです。

――それでは、プレイヤー次第で物語も変わってくるのでしょうか。

白鳥 ストーリー自体は、1本の流れになっていますが、マルチエンディングになっています。エンディングは、プレイヤーさんの性格とは別の条件で分岐していきます。

 大きな流れはいっしょなんですけど、分岐数は多くて複雑なんですよね。

白鳥 自分がどういったことに目を向けて、彼に言葉をかけてきたかで分岐するんですが、同じエンディングだとしても辿りつくパターンはもう人それぞれですね。

面会01

――同じ過程を歩む恋は、ほとんどないないわけですね。ストーリー自体は1週間ごとに配信されていくと聞きましたが。

阿達 そうですね。今回、ターゲットが女性メインというところもありまして、ストーリーも魅力的なので、続きが気になる連続ドラマのような展開でいこうと。それにちなんだ宣伝展開もいろいろ考えております。

――確かに、女性は連続ドラマにはなじみ深いですよね。

 そうですね、連続ドラマのように各エピソードの最後に予告編がついています。

実田 続きが気になるようなキーワードが散りばめられてます。

 シナリオを書いた白鳥には「つぎのエピソードにつながるフックを!」とお願いしていました。

白鳥 書くにあたって、海外ドラマや日本のアニメなどをいろいろと調べました。次週も見たくなるような工夫がよくなされているので。初期にイメージしていたのは『羊たちの沈黙』とか、クリストファーノーラン監督の映画『メメント』などですね。その影響で最初はシリアス寄りだったんですけど、なんか気づいたらはっちゃけた内容になっていました(笑)。

 サスペンスな要素もあるんですけど、チームで揉んでいって、イイところは残しつつ、皆さんに受け入れられるものが仕上がっていったのかなと思います。

――チームの皆さんでいろいろ方向性を考えられていったと。

 ええ。女性ばかりのチームなので、ミーティングをすると容赦ないツッコミが入るんですよ。「フックが足りない!」とか。

白鳥 「このままじゃキュンとしない」とかも言われました(笑)。私自身、恋愛ゲームは好きなんですけど、恋愛のシナリオを書くと照れが出てしまって。甘い言葉を書くときなどは、その殻を破るまですごく時間が掛かりました。自分の恥ずかしいところをさらけ出すような感じでしょうか。でも、人に見られたくないなと思うところほど、「すごくときめいた」と言っていただけたりして。

 結果的にみんなで意見を言い合える、活気のある雰囲気だったのがよかったんだと思います。白鳥のシナリオの骨子はちゃんとあるんですけど、チームの刺激がいい影響となって、さらに彩を持たせられたなと思いますね。

阿達 こんなことを言ったら怒られるんじゃないかという企画も、女性プロジェクトチームだからこそ言えたりするんです。「じつは私、こういうことがやりたいんだよね」と、気軽に言えるようなチームでして。男性から「これって何がおもしろいの?」って言われても「私たちはおもしろいんです!」って、女性ならではのところですごく言いやすい環境でした。

猪川 「女性視点ではこれはどうなの?」と聞かれる機会が多かったです。上司たちは男性ですけど、「男性とは、考えかたや何が響くかというのがちょっと違うところがあるよね」という前提に立って、私たちの提案を聞いてくれました。私たちも、私個人ではなくて、ちゃんと女性としての視点で提案できているかなというのは気を付けています。それでいま、理解を得られるすごくやりやすい環境を作ってもらえてありがたいなと思っています。

開発はイバラの道!? 苦難に磨かれて

――本作の開発中はいろいろ苦難があったそうですが……?

 ええ。紆余曲折がありました。企画はダイヤモンドの原石のごとく光るものがあったのですが、女性向けのゲームを作るというのは10年ぶり、前例がないことも多く、難しくて。諸事情により何回も開発凍結かというピンチを乗り越えてきました。それこそ、フェニックスかペンペン草かと(苦笑)。

白鳥 とにかく制作中止だけは避けたくて。

実田 でも、ピンチを乗り越えるたびに、どんどん企画がブラッシュアップされていきまして。それに合わせる形で、デザイン面も試行錯誤しました。企画当初はアニメタッチだったのですが、どんどん洗練されていき、現在のタッチになっていきました。

【ES】企画書画像(面会)_20130221_01 【ES】企画書画像(監視モード)_20130221_01
▲初期案のハルトと、監視モード。現在と雰囲気が異なっています。

“『パルマ』応援団”に支えられての開発!?

――立ち上げでかなり苦労されたのですね。

 はい、チームには当初、プログラマーがいなかったんですが、「魅力的な企画だから僕も手伝いたい」って言ってくださる男性プログラマーもいて。もちろん、チームが違うので『パルマ』以外を片付けたうえで、余った時間で手伝っていただいたのですが。こういったチャレンジを理解してくれる方は多かったです。

白鳥 上司も新しいチャレンジを応援したいと、見守ってくれました。

猪川 私たちプロモーション室以外にも、『パルマ』応援団がいるんです。このプロジェクトを好意的に捉えてくれて、「こういう風にしたらいいと思うんです」って意見をくれる人が社内にたくさんいたんですね。部署は違えど、私たちもいっしょにプロジェクトを作っている気持ちでしたね。

――では、もう少しで完成といういまの喜びは、ひとしおだったのでは。

白鳥 それはもう。そのとき社内の方から「あれ、ずっと続いていたんだ」と、ある意味、感嘆の言葉をいただきました(笑)。

差し入れ&監視システムは、ドキドキのコンボ

――ところで、先ほど差し入れができると伺いましたが、どんなものがあるのでしょうか?

白鳥 お花を始めさまざまですが、差し入れたものはハルトが部屋に飾ってくれたりします。そこから新しい話題が生まれたり、そのアイテムがきっかけで進んでいくようなクエストみたいなものも発生します。そのほか「あれ? 収容所なのに……」と思うような、おもしろいものもありますよ。バットとか差し入れると、ハルトが振ったりするんです(笑)。

監視_差入れ 監視_洗面台01

――バットまで! 振る姿も見られるとは。

白鳥 先ほども話した通り、監視カメラでハルトの部屋の様子を監視できるんです。直接彼に声を掛けたりはできないんですが、彼の行動の変化だったりが見られたりします。

監視_ベッド 監視_洗面台02

――なんだかドキドキしちゃいますね。

猪川 彼にいろいろなものが差し入れできるので、その切り口でコラボレーション展開も予定しているんですよ。多くの人に幅広くアピールできるきっかけにできればと、現在、企業様とも相談をさせていただいております。詳細は今後の情報を楽しみにしていただければと思いますが、「おっ、すごい!」と言っていただけるものと、「えっ!?」って驚いてもらえるものを予定しております。ぜひゲームの中に登場するアイテムにも、注目いただければと思います。

もうすぐハルトに会える! キャンペーンやイベントも予定!!

――最後に読者の皆さんへメッセージをお願いします。

猪川 10年ぶりにカプコンから出る女性向けタイトルで、いろいろな試みをしています。とにかくハルトくんに恋してほしいですね。目指すところがあって、情熱を持って作られたゲームですので、試しに1話をやってみていただけると。まるで本当の人間と接しているかのような、リアルなコミュニケーションと恋愛体験を体感できるゲームだと思っていただけます。

阿達 昨今の一般的な乙女ゲームとはまったく違った作品となっています。カプコンが作ったらこんな乙女ゲームなんだな、というのを伝えていきたいですね。有料アプリというところが大きなポイントにはなっているかと思うんですけど、梅原さんが好きだから、ハルトの見た目が好きだからとか、乙女ゲームが好きだからと、きっかけは何でもいいので、ぜひ1話をプレイしていただければと思います。きっと損はさせませんので、ぜひよろしくお願いいたします。

実田 いままで自分が携わってきた作品とはガラッとイメージが違って、自分にとってもたいへんなチャレンジでした。「おもしろいゲームをお客様に届けたい!」といういちばんの目標のもと、新しいアートの境地を狙ってがんばりましたので、ぜひこの”恋愛FPS”をお楽しみください。

 今回、女性向け恋愛ゲームという形でお話をしてきたんですけれど、社内の男性からも「ゲームとしておもしろい」という声が上がっている本作なので、男性の方も是非お試しいただければと思います。ゲーム会社カプコンの新規IPとして、ひとつのゲームとしてどこに出しても恥ずかしくないものを作っていると思っていますので、ぜひプレイしてみてください。

白鳥 紆余曲折ありながらも、新しいIP、おもしろいゲームを作りたいという一心で作ってきたタイトルです。その気持ちに共感してくれた方々の助けもあってここまできたタイトルでもあります。でも、みなさんには、純粋に彼との恋愛を楽しんでいただきたい、それだけです。ぜひハルトくんと恋してください!