放課後の教室でふたりきり……告白の大チャンス!?
悩むあなたを見て【彼】は――。
～加地 葵編～

僕は、奇跡の続きを夢見ている――。

窓の外には、夕焼けに赤く染まった街並みが広がっていた。
このカンパネラ学園は丘の上に建っていて、ハルモニアの風景が一望できる。
暮れなずんでゆくその景色に僕はため息をついた。

（なんて、美しい光景なんだろう）

しかも、ここには音楽の妖精であるファータが住み、僕が焦がれ求めた音楽の祝福に満ちている。

（今も、夢みたいだ。この島に僕なんかがいるなんて……）

そう考えて、僕は苦笑する。

（まあ、『夢』らしいけれど……）

この世界のできごとは一夜の夢。目覚めたら忘れるらしい。
でも、許されるなら、覚えていたい。そんなことを考えながら、夕日に沈む街並みを見つめていると、背後から声をかけられた。
振り向くと、そこには彼女が立っている。

「あれ？　まだ帰っていなかったんだ」

彼女はうなずいて、僕の隣に並ぶと、同じように夕日に視線を移す。
そして、僕がまだ帰らないのが気になって……と笑った。

「………………」

彼女への愛おしさで胸がいっぱいになる。
教室には、もう僕と彼女しか残っていない。
静かすぎて、まるで心の声すら響いてしまう気がした。
ふいに彼女が、僕の名を呼んでこちらを振り返った。

（あ……）

潤んだ瞳に、僕は直感した。
彼女もまた、僕への想いをその胸に抱いているのだと。

（すごく傲慢な考えだけど……きっと間違っていない）

彼女が口を開こうとするのを、人差し指で止めた。

「待って。僕のほうから言わせて？」

僕は彼女に微笑んでから、深呼吸をひとつして、口を開く。

「君が好きだよ。……あの夜、伝えたことだけど、音楽を……君を好きでいて、本当に良かった……」

僕の言葉に彼女は、嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔を見て、心に彼女への想いがあふれ出す。

（覚えていたい……）

僕は切実に願う。
この夕日も、彼女の笑顔も、今、感じたこの愛おしいという感情も……。

（たとえ、一夜の夢だとしても……）

僕はもう一度奇跡を願う。目覚めても、この幸せな瞬間を覚えていられるように……と。