狂気に満ちた“本”への潜書を体感

『文豪とアルケミスト』初の朗読イベント『文豪とアルケミスト 文士劇 夏夜怪綺談』が、2019年8月24日に東京・一ツ橋ホールにて昼夜2回にわたり開催されました。

朗読CD第7~9弾の発売を記念した本イベントには、浪川大輔さん(夢野久作役)、斉藤壮馬さん(江戸川乱歩役)、野島健児さん(萩原朔太郎役)、内田雄馬さん(小泉八雲役)が出演し、それぞれが演じる役の著書を朗読しました。(野島さんは昼公演のみ・内田さんは夜公演のみ出演)

『夏夜怪綺談』と銘打たれた今回のイベントでは、※文学作品の原作に基づいた猟奇的な表現を含みます。 という注意書きが公式サイトに見られるなど、普通の朗読劇とは一線を画する内容。

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夜の部では『ドグラ・マグラ』から『巻頭歌』『キチガイ地獄外道祭文(一部)』『書けない探偵小説』(夢野久作)、『白昼夢』(江戸川乱歩)、『雪おんな』(小泉八雲)が、『文豪とアルケミスト』の世界観をベースに順番に朗読されていきました。

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▲百物語を思わせる蝋燭に囲まれたステージは雰囲気満点

イベント冒頭、浪川さん、斉藤さん、内田さんが本イベントの描き下ろしイラストを思わせる和装で登場。

怪しげな本に潜書した夢野久作、江戸川乱歩、小泉八雲が、おどろおどろしく荒廃した世界を満喫していると、謎の本が現れーーという物語の導入を朗読します。

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胎児よ 胎児よ 何故躍る 母親の心がわかって おそろしいのかーー。

お馴染みの巻頭歌から始まり、”キチガイ地獄外道祭文”のパートを巧みな抑揚とリズムでうたいあげた浪川さん。混沌とした『ドグラ・マグラ』の世界観に、あっという間に観客を引きずりこみます。

続けざまに朗読されたのは『書けない探偵小説』。作品として完成することのなかったトリックのひとつひとつが、浪川さんの朗読で彩られていく様は、活字では得られない感覚でした。

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続いて斉藤さんが『白昼夢』を朗読。妻を手に掛けた一部始終を道端で喚く男と、その男を笑い者にする噛み合わない大衆、そしてそんな非現実な場面に遭遇した”私”。

どこからが白昼夢だったのか、誰が悪夢を見ていたのか。追い込まれていく”私”と狂気に満ちた世界を表現しきった斉藤さんの後ろには、果てしのない白い大道と陽炎が見えたような気がしました。

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最後は内田さんによる『雪おんな』。冒頭、「ココからは少しダケ聞き取り易くなりマス!」という宣言で笑いをさらいましたが、恐ろしくも悲しい物語を情感たっぷりに朗読。とくに雪おんなのセリフひとつひとつから巳之吉への慕情が感じられ、最後の悲壮感に満ちた叫びは圧巻でした。

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キャスト陣の鬼気迫る熱演に、客席の反応を受けて生まれる空気感と、生でなければ味わえない朗読劇の醍醐味はもちろん。『文豪とアルケミスト』ならではの文豪同士の作品への解釈が聞ける幕間のシナリオも展開され、なんとも贅沢な内容でした。

恐怖すら覚える!? 自由すぎるトークで笑いの渦に

シナリオパートを終え、改めて登壇し自己紹介をする3人。斉藤さんが小泉八雲の口調で挨拶をし「うつるんですよ!」と笑いをさらうと、「(今日は)ちょっと味付け濃くなったよね⁉︎」と、浪川さんもすかさずツッコミ。

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小泉八雲の口調は収録時から内田さんの悩みの種だったようですが、「噛んでも有耶無耶にできる!」というまさかの暴露に、会場は笑いの渦に包まれました。

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イベントにちなみ、テーマは“怖い話”に。内田さんは中学生のときに友人宅の外階段に誰のものとも知れない日本人形を見かけ、ポルターガイスト的な現象も体験してしまった……という不思議なエピソードを披露。

斉藤さんからも、ケースに入れてあったはずの日本人形が夜中に障子の前に移動していたという恐怖体験が語られると、観客からは思わずといった悲鳴とどよめきが起こります。妹さんのイタズラというオチがつき会場は安堵に包まれましたが、センスのある心霊ドッキリを浪川さんは大いに気に入ったようでした。

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話題は変わり、それぞれ朗読した作品について聞かれると、斉藤さんは熱演のあまり酸欠になっていたとコメント。浪川さんも「息多めだったよね」とツッコミを入れつつ、役に入り込むとその辺の塩梅は難しいと、理解を示していました。

内田さんは『雪おんな』から、「いまの女性に過去の女性の話をするな」「余計なことは言わないほうが良い」というメッセージもあったのではないかと推察。浪川さんは『書けない探偵小説』の印象的なフレーズに触れつつ、「書きたいな〜で終わってる! なにも書けてないじゃないか!」と、独自の視点から作品にツッコミを入れて会場を沸かせました。

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続いてのトークテーマは、“キャスト陣が好きな●●”

文学好きで知られる斉藤さんは、『ドグラ・マグラ』も好きな作品のひとつとのこと。中学生のときに購入したそうですが、刺激的な表紙に堂々と買うことがはばかられ、ほかの本で挟んでレジに持って行ったと、若かりし日の思い出を語ります。

内田さんは、浪川さんに聞かれるがまま好きな肉の部位を語ってくれましたが、なんとか軌道修正し、勧善懲悪が描かれる作品が好きとコメント。「わかりやすくハッピーエンドな展開が良い!」という内田さんらしい主張に、観客の皆さんも「うんうん」と頷いていました。

この後もゲーム内や朗読CDの情報が伝えられましたが、終始笑いの絶えないトークコーナーとなりました。

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キャスト陣のコメントをお届け!

斉藤さん:夏に怪談というテーマで朗読というのは、みなさんといろんな怖さを共有できるユニークな試みだと思いました。僕自身も文学が大好きなので、『文アル』からさらにいろいろな文学の深い世界に皆さんと一緒に潜っていけたらなと思います。今後とも『文アル』をよろしくお願いいたします!

内田さん:小泉八雲として喋り方も特徴を持ってやってきましたが、まさか朗読の機会を頂けるとは思いませんでした(笑) いつかは八雲で1本やれたらいいなあ、なんて思いますが……(会場の大きな拍手を受けて)でもそのかわり、台本は八雲の口調で書いてほしい!(笑) これからもみなさんと文学を通して『文豪とアルケミスト』を楽しんでいけたらいいなと思いますので、どうぞこれからもよろしくおねgs……キョウハ、アリガトウゴザイマシタ!

浪川さん:ハイ、噛み祭りとなりましたけれども(笑) 文学作品って、壮馬くんなんかは中学生から携わっているようだけど、僕なんかはなかなか機会がなくてですね。でも、『文豪とアルケミスト』のような作品や、こういうイベントを通して、本当に文学って素晴らしいもので、もっともっと深いものであると感じますし、だからこそ現代にも残っているのかな、なんていうふうにも思います。

入り方はどうあれ、「アリガトゴザイマス」からでも「小泉八雲さんという方がいらっしゃったんだ」と興味を持って頂ければ、素晴らしい世界が広がるんじゃないかな、と思います。そしてなにより、今日無事に終われたことが……(斉藤さん・内田さんに向けて)ねっ! 良かったね! 本日は誠に、ありがとうございました!

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