襟川氏が考える“ルビパらしさ”とは?
“乙女のための最強ゲーム誌”をキャッチコピーに、2018年3月に16周年を迎えた女性向けゲーム誌『B’s-LOG』。このたびWebサイトをリニューアルし、“B’s-LOG.com”として生まれ変わったことを記念して、女性向け恋愛ゲーム――通称“乙女ゲーム”の草分け的存在である“ネオロマンス”シリーズでおなじみの、コーエーテクモゲームス・ルビーパーティーブランドのキーマンに直撃インタビュー!
20年以上にわたり、乙女のためのゲームを作り続けてきたルビーパーティーの裏側を始め、乙女をときめかせるためのコツなど、ここだけのお話をたっぷりうかがいました。ボリューム満点のインタビューを、前後編でお届けします♪
――ルビーパーティーの“ブランド長”を務めていらっしゃる襟川さんですが、ブランド長のお仕事内容を教えてください。
襟川 ブランド全体のビジュアルやシナリオなどのクオリティコントロールと、各タイトルの総合プロデュ―スをしています。いちばん最後にジャッジをする仕事ですね。
――総合プロデュースというのは、具体的にどのような?
襟川 たとえば『金色のコルダ』や『遙かなる時空の中で』は、ゲームだけではなくイベントやCDなど、さまざまなメディアミックス展開があります。それらすべてを指揮するということです。提案された企画について“やるやらない”を決めたり、自分から提案することもあります。それと、各タイトルの今後の方向性を決めるのも私の仕事ですので、舵取り役と思って頂ければよいのではないでしょうか。
――乙女ゲームの歴史は1994年に発売された『アンジェリーク』から始まりました。改めて、女性向けに特化したゲームが誕生した経緯を教えていただけますか?
襟川 1980年代のゲーム市場はPC全盛期で、シミュレーションやアクションシューティングといったゲームが多く、プレイヤーもほとんど男性ばかり。女性向けと呼べるようなタイトルがなかったんです。そこで当社の会長である襟川恵子が、「世の中には男性も女性もいるのに、なぜ女性が楽しめるようなゲームがないの? これは私が作るしかない!」という思いから、女性が楽しめるゲームを、女性だけのチームで作るプロジェクトを立ち上げたのがきっかけです。ただ、その当時は女性の開発者が全然いなかったので、まずは開発者を採用して育てるところから始まりました。正式にプロジェクトが立ち上がったのは1990年代に入ってからと聞いています。
――そして1994年には『アンジェリーク』が発売されたと。
襟川 女性のためのゲームを作るのであれば、女の子が好きなものをとことん集めよう! ……ということになり、主人公をガーリーに寄せて、ピンクを多用しました。さらに女の子がドキドキするような恋愛要素を入れて、相手はやっぱり王子様みたいなステキな男性がいいということでギリシャ神話をモチーフに、ファンタジーな世界観のゲームになりました。初の女性向けゲームの開発はかなり難航したそうで、特にいままでゲームをプレイしたことのない女の子でも楽しく遊べるように、ゲームシステムをシンプルで奥深いものに落とし込むことにとても時間がかかったそうです。
――90年代のほかのゲームをプレイすると、『アンジェリーク』がゲームシステムの面でもいかに優れていたかを実感します。たとえば“力をもらったら建物ができる”ですとか、“体力が減ったらハートが減る”ですとか……。
襟川 そうなんですよ! 守護聖からサクリアを送ってもらったときに、どれくらいパラメーターが上がったかを数値だけで表すとシステマチックになってしまうので、建物ができることで表現したり、親密度が上がるとハートのマークが溜まっていくなど、視覚的な面でわかりやすく楽しめるようにしたんです。女性ってポイントカードのポイントをためるのが好きじゃないですか(笑)。同じような要領ですね。
――開発当時のことを覚えていらっしゃいますか?
襟川 私は当時学生で、ちょうど『アンジェリーク』のターゲット層だったこともあって、プロトタイプ版のモニターとして関わっていました。最初は“大陸を育てるために守護聖に力を送ってもらうだけ”というシンプルなもので、「女の子向けって言っているけど、どこを楽しめばいいのかな?」という内容だったんです。そこから、ライバルと競うシステム、公園デート、占いやおまじない……と、どんどん要素が追加されて、ゲームがおもしろくなっていく過程にワクワクしましたね。キャラクターも、最初は仮のイラストやセリフだったものが、由羅(カイリ)先生の描かれたキャラクターになり、美しい守護聖が甘い言葉をささやいてくれるんですよ! 最初は、ちょっと褒められたり優しい言葉をかけられるだけで一喜一憂したのを覚えています(笑)。
――襟川さんからご覧になった『アンジェリーク』のインパクトはどのようなものでしたか?
襟川 それまでマンガやアニメでキャラクターを好きになっても、気持ちは一方通行でした。ですが『アンジェリーク』は、相手が気持ちを返してくれるわけですよ。守護聖から私に向けたメッセージがあって、守護聖が私を好きになってくれる。キャラクターと相互の関係性を作れるところが新鮮で、いままで味わったことのない喜びやときめきを感じました。正直、当時は恋愛モノのマンガやアニメにあまり興味がなかったのですが、守護聖との恋愛にはものすごく夢中になりましたね。ゲームのキャラクターにあれだけ没頭したのは初めてというくらい、ワーッとハマりました。
――『アンジェリーク』は相手が自分に興味のないところもちゃんと描かれ、明確になるのが斬新でした。いまでもでもマルセルの顔が忘れられません……。
襟川 『アンジェリーク』は結構シビアで、親密度が低いと「帰れ」みたいな冷たいセリフを表情で言われたり、親密度が高くてもデートの選択肢などをちょっとミスしただけで帰られちゃったりしますよね(笑)。あの“塩対応”が、「絶対好きにさせてみせる!」や「ほかのキャラの対応はどんな感じなの?」という、プレイのモチベーションにつながる『アンジェリーク』のおもしろさのひとつだと思います。星座や血液型を変えると守護聖との相性や関係性も変わるので、1回だけ遊んで終わり……ではなく、いろいろな自分(=主人公)を作って何回でもゲームを楽しめるところも好きでしたね。
――ちなみに……襟川さんの推し守護聖様はどなたでしょう?
襟川 もちろん全員好きなのですが、あの当時、特に好きだったのはゼフェルとリュミエールです。“ツンデレ”のキャラクターにゼフェルで初めて触れたんですよ。最初は相性がよくても冷たいので、「なんだコイツ」となるわけです(笑)。でもだんだんデレが入ってくると「何この子、かわいい! しかもかっこいい!」って(笑)。いまとなっては結構なツンデレ好きになってしまいました(笑)。リュミエールは、その頃優しいお兄さんタイプのキャラクターが好きだったので、ドンピシャで好きになりましたね。
――『アンジェリーク』は派生タイトルも多く誕生しましたね。
襟川 大学生の頃、アルバイトで『アンジェリークSpecial2』や『アンジェリーク 天空の鎮魂歌』の開発に携わって、シナリオも書いていました。自分が大好きなキャラクターたちのメッセージを自分で書いていたんですよ(笑)。夢のような仕事でしたが、開発現場ではフワフワしているヒマもなく、慣れないセリフ作りに必死でした。手前味噌ではありますが、『天空の鎮魂歌』は、これまで育成シミュレーションだった『アンジェリーク』がRPGになって、ダークヒーロー的存在のアリオスが出てきて……いままでと違う世界観に、これまた没頭してしまいました。開発中すでに何度もプレイしているんですが、発売してからも何回も何回もプレイして、何度泣いたかわかりません(笑)。開発者としての自分と、ただの1ファンの自分との二面性が生まれたのはそのときからだと思います。
――以来、数々のヒット作を輩出してきたルビーパーティーですが、乙女ゲームの制作にあたってもっとも大切にされていることは何なのでしょうか?
襟川 とても大切にしているのは“共感できる主人公”であるか、ということです。ネオロマンスには“がんばっている女の子は輝いている”というテーマがあります。女王試験や音楽コンクール、怨霊を退治して世界の平和を守る……主人公はそういった目標に向かってがんばっていて、ストーリーを通してキラキラと成長していきます。その過程も含めて、ユーザーに共感してもらえるかどうか。そこは女性向けゲームとしてはとても重要です。何しろ自分の分身ですから。
――襟川さんからご覧になった、ネオロマンス作品のファンの方というのはどのような存在でしょうか?
襟川 ブランドが長いだけに、タイトルやキャラクターに対する愛がとても深い方が多い印象です。イベントに行ったりSNSを覗くと、ファンの方が大きな愛でタイトルを守ってくださっているな、ありがたいなといつも感じています。また、親子二代でファンという方も結構いらっしゃいますね。ネオロマンスシリーズは、お母さんと娘さんが安心して一緒に楽しめるタイトルということも、ひとつの大きな特徴だと思います。
――CDやイベントなどメディアミックス展開もルビーパーティーの強みだと思いますが、そういった展開において大切にされていることを教えてください。
襟川 CDやイベントについては、原作となるゲームの開発者と別のチームが作るものになるので、世界観やキャラクターが崩れないよう、作品を守ることにはとても力を入れています。各タイトルごとに作品を守る門番のような開発兼チェック担当者がいて、その担当者がOKしないとイベントやCDの発売ができないんです。「ここはもっとこういう表現にしてほしい」といったように、セリフの語尾など細かくチェックを入れるので、ゲームの開発で忙しいときにチェックが大量に回ってくると、パニックになることもあります(笑)。
――その話にも通ずるのですが、襟川さんがお考えになる“ルビーパーティーらしさ”とは何でしょうか?
襟川 ネオロマンスシリーズで言うと、“夢のような恋の世界”ですね。魅力的なキャラクターや作りこまれた世界観、丁寧に描かれる恋愛の過程、重厚なストーリー、誰でも楽しめるシンプルで快適なゲームシステム。それらが揃って初めてファンタジーな恋に夢中になれると思っています。ボタンひとつでネオロマンスの世界に飛び込める、没入感をそがないゲーム作りを心掛けています。
――“没入感を出す”ためのコツはどこにあるのでしょうか?
襟川 先ほどもお話ししましたが、自分を投影する主人公が共感できるキャラクターでないと、まず没入できないです。それから、相手のキャラクターから突然脈絡もなく「好きだ」と言われても「は?」となりますよね(笑)。もちろんそういう恋愛もあるかもしれませんが、ネオロマンスでは目標に向かって一緒にがんばるなかで、あるいは何かきっかけがあって関係が築かれて、お互いを好きになっていく……という恋愛の過程を大切にしています。
――彼がなぜ私のことを好きになってくれたのか、という経緯ですね。
襟川 そうです、そこにはときめき要素満載ですから! 相手が自分を徐々に好きになっていくのが目に見えてわかる。あるいはふんわりとでもいいから感じられる。それらを丁寧に描くことで相手の新しい魅力も感じられて、自分もますます相手を好きになる。この好きの循環サイクルが破綻していると、なぜ相手が自分のことを好きになったかわからなくて、冷めちゃうんですよね。ですので、恋愛の過程はとにかく丁寧に描く。これに尽きます。
――“いきなり感”がないというのも没入感につながりそうです。
襟川 そうですね。唐突感がないように、というところは私も気をつけている項目のひとつです。けれどたまには、いきなり「好きだ」と言われるところから始まるキャラクターもアリです。それにはきっと何か理由があるわけじゃないですか。それが徐々にわかるのも、それはそれですごく楽しいと思うんですよね。“なぜ私のことを好きなのか?”を、しっかりユーザーさんに見せることが大切だと思います。
後編では、ファンなら気になるルビーパーティーの今後の展開も直撃!
【インタビュー】恋愛ゲームと育成ゲーム、人気キャラの違いとは? ルビーパーティーブランド長・襟川芽衣氏と乙女ゲーム談義☆後編
さらに襟川氏がいまハマっているという○○から“スパダリ”談義まで、さらにディープなお話をうかがっています。ぜひチェックしてくださいね!